萩富士図割高台茶碗 はぎふじずわりこうだいちゃわん
六代林半六(泥平) ろくだいはやしはんろく(どろへい)
- 江戸時代後期
- 当館蔵
伊与原新さんの短編集『藍を継ぐ海』が今年の1月、第172回直木賞に輝きました。
その一篇「夢化けの島」では萩焼に用いられる見島土(みしまつち)が重要なファクターとして登場し、その土を追い求めた男の先祖が萩藩の御用窯のひとつであった林窯の6代目、林半六(泥平・どろへい/1853没)という設定になっていました。
林窯は萩城下の松本村にあった御用窯のひとつで、泥平は名工と謳われましたが、後を継いだ7代半六の出奔によって文化14年(1817)に廃絶しています。
しかし泥平はその後も古林仕平と名を変えて作陶を続け、最後は萩焼の生産地であった長門深川(ふかわ)で90歳を超える長寿を全うしました。
今回ご紹介するのは、箱書から泥平の作とわかる茶碗で、江戸時代後期の公卿・千種有功(ちぐさありこと/1796~1854)が富士山の絵と和歌を添えた合作です。
和歌は内箱の蓋に上の句、茶碗に下の句が記され、「ふしのねは みくににわたる あしかけて」「うこかぬみよの たからなりけり」(富士の嶺は御国=日本にかかる足のようなものか、これは動かない盤石な御代を象徴する宝であるよ)と読むことができます。
千種有功と泥平の関係など不明な点もありますが、薄手の轆轤さばきや明快な器形、高く削り出した高台などからは、その造形力の確かさがうかがわれます。

2025年9月30日(火)から2025年12月21日(日)まで
コレクション展・東洋陶磁「古萩」にて出品
コレクション展・東洋陶磁「古萩」にて出品