瀬戸内海集 光る海 せとないかいしゅう ひかるうみ
吉田博 よしだひろし
- 大正15年(1926)
- 多色摺木版画
- 当館蔵
帆船が浮かぶ瀬戸内海に夕陽が沈んで間もない風景を描いたと思われます。波のない静かな凪の水面には、水平線に隠れて見えなくなった太陽の光線が、一直線に伸びています。反射する光の輝きと広がりが、色彩と彫りによって見事に表現されています。
この「瀬戸内海集」は、海を主題にした代表的なシリーズです。吉田博は山岳画家として知られていますが、海を主題にする作品も数多く手がけました。「光る海」は、イギリスの故ダイアナ妃が、執務室に飾っていたことでも知られています。
明治32年(1899)、吉田は23歳で初めてアメリカに渡りました。各地で展覧会を開催し、作品を売却した資金で欧州まで旅を続けるという旅でしたが、大変な評判を得て成功を収めることができました。以来、吉田は生涯に5回の世界旅行を行い、文字通り国際的な視野を持って活躍をした画家でした。
特に3回目の渡航は、大正12年(1924)に起きた関東大震災で被災した画家仲間と新版画の版元、渡邊庄三郎を援助するために、預かった作品をアメリカで販売する目的を持っていました。その時に新版画の人気を確信した吉田は、帰国後の同14年から彫師、摺師を自ら雇い、「自摺」と称した私家版の制作を開始します。そして版画の制作は晩年まで続けられました。
吉田は昭和5年(1930)にオハイオ州トリード美術館で新版画の展覧会を開催するなど、アメリカで日本の木版画の普及にも貢献しています。
ところで吉田博のアメリカでの活躍は、現在開催中の「ロックフェラー・コレクション花鳥版画展」の蒐集家アビー・オルドリッチ・ロックフェラー(1874-1948)が存命していた時代と重なります。浮世絵版画を愛したアビーが、吉田の木版画を見る機会があったかは定かでありません。しかし江戸時代の浮世絵版画の伝統を受け継ぐ芸術として、吉田の木版画や新版画が国際的に評価されたということは間違いないでしょう。
コレクション展・浮世絵「吉田博の風景版画」にて出品